三浦綾子と太宰治

話題の映画『人間失格 太宰治と3人の女たち』(蜷川実花監督、小栗旬主演)を観てきました。太宰治の生誕110周年を機に映画化されたそうですが、3人の女性たちを演じた、宮沢りえさん、沢尻エリカさん、二階堂ふみさん、それぞれに存在感があり、“女優魂”なるものを感じさせられました。

三浦綾子の、とくに初期作品には、太宰治の名前がいくつも登場しています。

印象的なところでは、高校生サチコの日記体で書かれた「雨はあした晴れるだろう」(初出1966年)の前半部分。よく知られた「生れて、すみません」(太宰治「二十世紀旗手」)にふれた箇所があります。

 

太宰治はどうして自殺したのだろう。

生マレテキテスミマセン

こんな悲しいことばを知った人は、死ぬよりしかたがなかったのだろうか。太宰治は必死になって生きていた。わたしはそれがわかるような気がする。

わたしもまた、必死になって生きてゆきたい。しかし、生きるっていったいなんなのだろう。

(略)

人生って、恋だけのためにあるんじゃないって、ハッと気づく日がくるのではないだろうか。

それでもいい。ハッと気づく日がきたら、また、その日から生き直せばいい。

『雨はあした晴れるだろう』北海道新聞社、p22~23

 

太宰治の苦悩の選択にふれなから、多感なサチコに、生きることの意味を自問させ、生き続けることの重みを発見させたくだりです。少女らしい潔癖さと、ひたむきさもうかがえますね。

かぞえると、三浦綾子は、太宰治より13歳年下。そんな綾子の読書体験にも思いを馳せながら、秋の夜長の読書もお楽しみください。

田中 綾

愛媛県と三浦綾子と、北海道大学

『ちいろば先生物語』の読後感といえば、圧倒された、に尽きるでしょうか。榎本保郎牧師の生涯のダイナミックさ、劇的さ――「ちいろば」というかわいらしいタイトルとのギャップも、相乗効果になるようです。

榎本牧師が自伝「ちいろば」を連載したのは、愛媛県の日本基督教団今治教会の週報でした。2年間連載したのち、1975年に近江八幡市へと居を移しましたが、現在でも、今治市では「ちいろば」牧師の足跡は濃厚なのでしょう。

そんな、三浦文学ゆかりの愛媛県で、9月7日(土)に講演をさせていただくこととなりました。愛媛エルム会(北海道大学同窓会)の主催で、「短歌がつなぐ365日~歌人としての三浦綾子~」です。

https://sites.google.com/site/ehimeelm2016/10-information/10-1-2019seminar

主催の方々への感謝も込めて、三浦綾子の小説に登場する「北海道大学」をあらためて調べてみました。ご存じ、『氷点』『続氷点』、『ひつじが丘』などに登場していますね。とりわけ『続氷点』では、主要登場人物がほぼ北大生で、札幌の街並みも追体験できます。

辻口陽子(ヒロイン)

北大生 辻口啓造(父)

北大医学部卒 辻口 徹(兄)

北大医学部生 北原邦雄(徹の友人) 北大理学部生→院に進学

津川教授(陽子の祖父=夏枝の父) 北大医学部内科教授

注目すべきは風景描写。実際に、三浦夫妻は北大構内や植物園を取材し、臨場感を伝えています。

クラーク会館から、北に一キロほど伸びた真っすぐな舗装路には、絶えず自動車が走り、学生たちが行きかっていた。ここから見る北大構内の眺めが、陽子は一番すきだった。

舗装路の左手は農学部で、その北よりに黄土色の三階建の理学部が、大きなニレの木立ごしに見える。ニレの向こうに、ポプラが幾本か道に沿ってそびえている。

『続氷点』角川文庫版 下巻「新芽」p7

 

三浦文学を通じて、愛媛&北海道の文学散歩も楽しんでみませんか?

田中 綾

 

旭川駅で、三浦文学館を発見!?

JR旭川駅直結の、イオンモール旭川駅前。2015年の開業なので、三浦綾子・光世夫妻の召天後のものですが、市民にはすっかりおなじみのショッピングモールでしょうか。

その4階にある、お好み焼の「風月」。太麺焼きそばのボリュームも嬉しいお店ですが、壁面の躍動感あるイラストに、食欲もそそられます。しかも、いくつものイラストの中に、なんと、三浦綾子記念文学館の姿を発見! お好み焼のコテ(ヘラ)の表情もキュートで、なんだか夢の国の建物のようですね。

三浦文学にはさまざまな食べ物が登場していますが、実は、お好み焼など“粉もん”はほぼ登場ナシ。「小麦粉」は『石の森』に登場しますが、食べものとしてではなく、ねん挫した足にぬる、という使い方でした(これも三浦文学ならではでしょうか?)。

なので、お好み焼店と三浦文学館のイラストのコラボは、とても新しいものに感じます。

イラストを担当されたのは、小川けんいちさん。

旭川市在住で、旭山動物園のお菓子のパッケージデザインや、ホワイト企業大賞ロゴマークのデザインなど、さまざまなシーンで活躍しておられます。

さて、その小川けんいちさんが、この度、三浦文学館オリジナルパッケージ「蔵生(くらなま)」デザインも手掛けてくださいました。

しっとりした生チョコサブレの「蔵生」は、ロバ菓子司さんの「ザ・さんくろうど」ブランドの銘菓で、三浦光世さんお気に入りのお菓子だったとか。

美味しさに加え、パッケージにもご注目を。中央の手描きの二行は、三浦綾子デビュー作『氷点』の文字です。それをめぐって、原稿用紙や、インク、将棋の駒など、三浦夫妻ゆかりの品々のカットが添えられています。一つ一つのエピソードを思い浮かべながら、味わっていただきたいです。

ちなみに、3つの味わいのうち、アーモンドは新商品だとか。文学館のオープンカフェでも提供していますので、香ばしさをご実感ください。

(↓こちらから、お取り寄せもできます)

https://www.hyouten.net/?pid=144337258

田中 綾

き花――文学館オリジナルパッケージ、誕生!

6月13日の開館記念日に、新たな「おみやげ」が誕生しました。
壺屋総本店さんの銘菓「き花」(きばな)。香ばしいアーモンドガレットに、ホワイトチョコをサンドしたお菓子で、私も子どものころから親しんできたスイーツです。
三浦文学館オリジナルパッケージは3種類で、デザインは、旭川市在住の齋藤玄輔さん。
やわらかいタッチで、心がほんのりあたたまる、素敵なデザインです。

さて、「き花」とは珍しいネーミングですが、その原典は、齋藤瀏の第二歌集『霧華』(1929年)に由来するとか。軍人で、第七師団に二度赴任した、旭川ゆかりの歌人です。
「きばな」は、現在でいうダイヤモンドダスト現象のことですが、そこに「霧華」の漢字をあてたのが齋藤瀏だったのですね。エッセイに、次のように書かれています。

「霧華とは、一般には霧氷又は樹氷などとかかれて居る『きばな』に私が宛てた文字である」(「旭川の四季」)

そして、齋藤瀏は、北国の神秘的な冬の姿をさまざまに歌っていたのでした。

・霧にそまりあかあかと陽はのぼるなり霧華凝(こ)りたる森に沁みつつ

・ほのかなる光となりて降りにけり大木の霧華おのづから散り

・すみ深き星夜の空にぬきいでて木々の霧華のおのれ照りたり

歌人・齋藤史は齋藤瀏の娘ですが、父娘二人で、霧華の美しさに心ひかれていたさままで想像されます。

ところで、「き花」は大きさが2つあり、三浦文学館のものはミニサイズのほうです。4枚入り350円とお手頃なので、ちょっとしたプレゼントなどに、どうぞ。

田中 綾

 

※参考文献……石山宗晏・西勝洋一『道北を巡った歌人たち』旭川振興公社、2013年

全国の文学館―資料の宝庫と、その活用

どさっ。

私の郵便受けには、毎日さまざまな本、文芸雑誌などが届けられます。1年に、単行本で100冊(!)、雑誌で300冊は増えていくでしょうか。ありがたいことですが、置き場所に困ることもしばしば。三浦家のように広い書庫があればいいのですが……

さて、先日、ずいぶん重い封筒が届きました。中身は、日本近代文学会『日本近代文学』第100集と、その別冊『近代文学研究における〈資料〉の活用』。

日本近代文学会http://amjls.web.fc2.com/は、私も一会員ですが、まずは「100集」刊行、55年もの長い活動に何より敬意を。さらに、その節目の集の別冊に、全国の文学館・記念館アンケートが収録されたことを嬉しく感じています。

別冊冊子には、全国174館の資料情報、展示企画などが掲載され、三浦綾子記念文学館も、しっかりと23ページに掲載されています。旭川にある「井上靖記念館」や、和寒町にある「塩狩峠記念館」なども掲載され、文学館・記念館が、北海道の観光スポットとしても機能していることがうかがえます。

観光スポットとしての文学館の機能は、今後ますます求められていくと思いますが、それと同時に、文学研究者に資料活用を促すこともやはり文学館の大切な役割でしょう。

文学の研究活動にとって、〈資料〉は生命線です。その大切な資料を扱い、保管し、必要に応じて的確に提供する文学館の役割を、あらためて感じています。

さて、最後に予告を。

そのような全国の多くの文学館に先駆けて、三浦綾子記念文学館は、今後、まったく新たな企画を実現していきます。

・三浦綾子ARアプリ https://www.hyouten.com/miura-ayako-ar-app

・綾コレカード https://www.hyouten.com/aya-colle

・オーディオライブラリー https://www.hyouten.com/audio-library

え、何これ? どういうもの?? ――どうぞ、ご期待ください!

田中 綾

三浦光世の短歌 企画展「愛の短歌・夫婦生活40年」

今、文学館2階第四展示室では、企画展「愛の短歌・夫婦生活40年 光世のまなざし、綾子の横顔」を開催中です(6月9日まで)。
今年は三浦綾子没後20年ですが、同時に、結婚60年にもあたる年です。お手洗い以外はいつも一緒(!)とも言われた光世・綾子夫妻ですが、そのような間近で、光世さんは、どのような綾子像を短歌で表現していたのでしょう。

展示では光世短歌14首をパネルで掲げ、私も「ワンポイント解説」をさせていただきました。堀田(三浦)綾子短歌とともに、光世短歌もこれまで繰り返し読んできたのですが、あらためて、新鮮な目で短歌を味わうことができました。

たとえば、出逢ってから結婚にいたるまでのこの一首。

・旅の終りの今朝吾が見たる夢淋し生きよと三度君に告げゐつ(1957年作品)

朝方の「夢」は、どんなに淋しい夢だったのでしょう。おそらく、「君」=綾子さんの健康状態が思わしくなく、悲痛な思いにかられ、「三度」も「生きよ」と強く告げたくなったのでしょう。短歌という詩形では、数字は重要なもので、目を引く言葉でもあります。この歌でも、「三」という数字の存在感が際立っています。

また、結婚して三浦商店を開き、忙しく立ち働いていたころの一首。

・今年最後の夕日です共に見ましゃうよ店に客絶えし間を妻の寄り来る(1962年作品)

光世さんの短歌には、綾子さんが話した言葉がそのまま詠み込まれたものもあり、その言葉が、実に生き生きと光っています。この歌でも、「共に見ましゃうよ」という、さりげない言葉が光っていますね。「今年最後の夕陽」の美しさを二人で共有したい、という願いが、臨場感をもって伝わってきます。

短歌は、五七五七七というとても短い詩型ですが、一冊の小説にもなりうるような小宇宙を秘めていることもあります。ぜひ、深く味わってみてください。

田中 綾

中国で、三浦綾子を読む

2019年3月23日と24日、中国の雲南大学本部で開催された、「第2回中日国際日本語教育研究大会」(主催:雲南大学外国語学院 共催:雲南日本語研究会)に参加しました。3年前の第1回大会以来、久しぶりの中国訪問です。

雲南省には多くの大学があり、この大会は、日本語学の研究者や、日本語を学んでいる学生・大学院生との研究交流の場です。国際学会ですが、すべて日本語で進行するので、語学が苦手な私にはありがたい機会でした。

初日は全体会で、2日目は分科会。第三分科会「文学」で、私は三浦綾子の小説についてお話をさせてもらいました。

約20人の参加者のうち、三浦綾子の小説を読んだことがあったのは2,3人。とはいえ、中国でも翻訳はなされています。

『氷点』『続氷点』→『冰点』『冰点2』

『泥流地帯』『続泥流地帯』→『十勝山之恋』

『青い棘』→『緑色棘刺』

『明日をうたう』→『熱愛明天』  など

それらをマクラに、綾子さんの来し方、自伝的小説の紹介、55作の小説のジャンル、語りかたなどにふれ、最後に『母』の話でまとめました。小林多喜二は中国でも知られていますが、小林多喜二の母・セキの生涯は知られていないので、興味深く耳を傾けてくださっていました。

さて、せっかくなので、雲南名物グルメ・あつあつスープ麺をご紹介しましょう。

名物の「過橋米線(グォチャオミーシェン)」は、手ごろな値段で味わえます。「米線」はビーフンのことですが、橋を渡る、というネーミングに中国ならではの意味があるそうです。

その昔、橋の向こうで科挙の試験勉強にうちこんでいた夫に、妻が、あつあつのスープ麺を運んでいたことが、ネーミングの由来だとか。豚肉、野菜、卵、きくらげなど栄養たっぷりで、これなら試験も合格できそうですね?

綾子さんの小説も、国境という橋を渡って、あつい想いを届けられるといいですね。

田中 綾

ゼミで『塩狩峠』を構造分析

勤務校のゼミで、三浦綾子の小説の研究に取り組んでいます。今年度は『塩狩峠』(新潮文庫版・79刷を使用)を精読し、章ごとに、その構造をゼミ生とともに分析しました。

分析した項目は、 「とき(時代、時間)」「場所」「語り手・人称」「登場人物とその情報」「語られたこと(開示された情報)」「語り・文体の特徴」「時代背景(明治期の風俗)がわかる描写や、用語の解説」「登場人物や、人間関係における葛藤の場面、会話など」「キリスト教や聖書に関する情報」「食べ物の描写」「植物」「動物」「色彩」「オノマトペ」「その他」 の、15項目です。

三浦作品に「オノマトペ」(擬音語・擬態語・擬声語・擬情語)が多いことは、構造分析をすると一目でわかります。 『塩狩峠』冒頭の「鏡」という章だけでも、

・きりっと(p5) ・ゲッ、ポロポロ、がっしり(p6) ・ぴたり(p7) ・ガタゴト(p8) ・もじもじ、すべすべ、つるつる(p10) ・ぐずぐず、こっくり(p11) ・にっこり、そっと、バタバタ、(p12) ・ピリリ(p14) ・ポカン(p16) ・くしゃくしゃ、しょんぼり(p17) ・いらいら、さっと、うろうろ、きりり(p18) ・おどおど、ひりひり、むすっと(p19) ・きりり、ピタリ、おろおろ(p21)

などが用いられているのです。

オノマトペは、絵本や児童の読みものにも多用されていますが、その効果は何でしょうか。オノマトペを用いると、情景がイメージしやすくなり、情報伝達のスピードも速くなるのです。 「三浦綾子の小説におけるオノマトペ」のテーマで、卒業論文を書く学生の登場を期待していますが………挑戦してみませんか?

※『塩狩峠』構造分析の成果は、ゼミ誌『A207』第10号(北海学園大学人文学部Ⅰ部 田中綾ゼミ)に収録し、7月7日開催の「第4回文学フリマ札幌」で販売します。よろしければ、お手にとってご覧ください!

田中 綾

2000年代生まれの学生と、三浦綾子

ちょっと、ショックな数値です。
2018年11月に、勤務先の大学の「日本文学史Ⅱ」(近・現代の文学史)という授業で、アンケートを行いました。質問は、ずばり「三浦綾子の作品を読んだことがありますか?」。
受講生は、人文学部の1~4年生で、142人から回答がありました。結果は――

三浦綾子の作品を
→ 読んだことがある・・・10人 (7%)
→ 名前は知っているが、読んだことはない・・・66人(47%)
→ 今回初めて聞いた・・・64人(45%)
→ 回答なし・・・2人(1%)

「三浦綾子」の名前を知っている学生が、とりあえずは半数を超えてはいるのですが、「今回初めて聞いた」も「45%」と半数近く、これが2000年代生まれの学生の傾向か……と、現実をつきつけられました。

「読んだことがある」学生には、作品も聞いてみました(複数回答)。

『氷点』6人
『塩狩峠』5人
『続氷点』1人
『天北原野』1人
『積木の箱』1人
『泥流地帯』1人

わりと幅広く読まれており、とくに『塩狩峠』は、朗読やアナウンスの練習に使われているという嬉しいニュースも。
知らないならば、伝えましょう! ということで、最終日には「特別講義・三浦綾子」を行いました。知る/読むきっかけ作りに、いっそう力を入れたいと感じています。

田中 綾

頌春 オーディオドラマから始まる、春

初春を迎え、みなさまの御多幸をお祈り申し上げます。

昨年は、分館オープンはじめ、開館20周年記念イベントが目白押しでした。その1つ、上富良野町との連携事業『泥流地帯』オーディオドラマの配信、もうお楽しみいただけましたでしょうか……?
このドラマは、朗読劇団「くるみの樹」の第2回公演を収録したものですが、「くるみの樹」は、三浦文学館のボランティアの方々と案内人の方々による、手作りの“文学館劇団”です。結成は、2018年4月。20人余の“生の声”で、三浦綾子の作品をダイジェストでお届けしますが、登場人物それぞれに名セリフがある三浦作品だけに、演出もドラマティックになされ、感激を誘う仕上がりになっています。
『泥流地帯』のオーディオドラマは、昨年12月からyoutubeで配信が始まり、1月5日(土)には、第5回目の動画も配信されます。

そして、今年は、下記の通り大型公演を予定しています。スタッフ一同、練習に力を入れておりますので、どうぞご期待ください!
・2019年5月25日(土)午後1時~ 『天北原野』
・2019年6月1日(土)午後1時~ 『天北原野』

【参考】『泥流地帯』オーディオドラマ
第1回配信 https://youtu.be/NWBYgaULZjM
第2回配信 https://youtu.be/LS-p99HhNvA
第3回配信 https://youtu.be/9cNyljlFlt0
第4回配信 https://youtu.be/x97E4Zn2B3c

田中 綾