河﨑秋子さん(三浦綾子文学賞受賞作家)の最新作、山田風太郎賞の候補に

作家・河﨑秋子さんの三浦綾子文学賞受賞作、『颶風(ぐふう)の王』(2015年)は、もうお読みになられたでしょうか。https://www.hyouten.net/?pid=91722402 3章からなり、明治から平成まで、6世代の人々が、「馬」とともに〈生きる〉力強い物語です。JRA賞馬事文化賞も受賞し、一気に注目を集めた作品でした。

その河﨑さんの3作目にあたる短編集『土に贖う』(2019年)は、すでに第39回新田次郎文学賞を受賞していますが、現在、第11回山田風太郎賞の候補作にもなっています。https://www.hyouten.net/?pid=152112144

『土に贖う』は、昭和の良質なプロレタリア文学をほうふつとさせ、さらに、ハードボイルドタッチの文体も魅力。個人的には最も好みなのですが、私が若い世代に勧めているのは、2作目の『肉弾』(2017年)。https://www.hyouten.net/?pid=131037597 2019年に、第21回大藪春彦賞を受賞した長編でもあります。

『肉弾』のストーリーには、「異界成長譚」のパターンが活用されています。そのパターンを箇条書きで示すと、

・「主人公(作中主体)」は主に未婚の若い青年。

・主人公が行動に出る=〈出発〉する(異界へ旅立つ)。

→異界ではさまざまな試練があり、難題が課せられるが、〈烙印〉が伏線となり、試練や難題は克服される。

・その通過儀礼を経て、〈変身〉=成長を遂げる。

つまり、青年が異界でもまれ、あがくうちに、援助者らの協力も得て「成長」を遂げるという物語。宮崎駿アニメなど、感動的な作品に見られる展開ともいえます。

『肉弾』の「主人公(作中主体)」は、関東在住の20代ニート「キミヤ」。父親に連れられ、北海道という〈異界〉で猟銃を握り、さまざまな試練を耐え抜きます。

最初は受身的なキミヤでしたが、父親が不在になったことで独立を余儀なくされ、そこから、飛躍的に力を発揮していきます。オオカミ犬のラウダたちに助けられつつ、ある大型の獣を仕留めることに成功! 青年キミヤから、一人前の男性「沢貴美也」へと変身=成長を遂げるのです。しかも、父親との葛藤を乗り越え、父親中心の社会からも解き放たれるところも読みどころでしょう。いくつかの犠牲をふまえ、自分の居場所を探しあてたあと、他者への優しさも生まれるのでした。

 

三浦綾子の小説との接点は、「生」への強力な導きでしょう。最終章の「狗命尽きず」に、「他の誰が望んでなくても、生きてやれ、お前ら。絶対に」というセリフもあるように、命の選別などはせず、「生」そのものに価値を置く発想が描かれています。読み終わったあとの達成感、快さは格別です。

それにしても、著書3冊がすべて大きな受賞している河﨑秋子さん、本当に今“旬”の、話題の作家ですね。山田風太郎賞の発表は10月16日。みなさんと一緒に応援しながら、その日を待ちたいと思います。

※河﨑秋子さんの、北海道新聞電子版連載コラム「元羊飼いのつぶやき」は、こちらからどうぞ→ https://www.hokkaido-np.co.jp/column/c_weekly_column/akiko_kawasaki/

 田中 綾